ロードバイクのトレーニングをしていると、「FTPをもっと上げたい」「PWR(パワーウェイトレシオ)4倍を目指したい」といった目標を持つことがあると思います。
私自身も、本格的にトレーニングを始めた直後はFTPを上げることにかなりこだわっていました。
特に目標にしていたのが富士ヒルのシルバーです。
「FTPを上げて、シルバーの目安とされるPWRまで到達すれば、きっとシルバーを獲れる」そんなふうに考えていました。
しかし、実際にロードレースやヒルクライムなど、さまざまなレースを走るようになってから、その考え方は少しずつ変わっていきました。
- 事前に聞いていたPWRの序列通りにレース結果が並ばない
- 自分よりFTPが低いと聞いていた選手に負ける
- 自分よりPWRが高い選手よりも自分の方が速いこともある
- 富士ヒルでシルバーを狙えると言われるPWRがあっても、必ずシルバーを獲れるわけではない

実際、私はFTPベースのPWRが4倍あっても、2年連続でシルバーを逃しています。
一つのレースをきっかけに突然理解したわけではなく、2026年にJBCFのロードレースや全日本選手権、グランフォンド世界選手権などを走る中で、少しずつ分かってきたことがあります。
それは、FTPの高さ=ロードバイクにおける「戦闘力」の高さではないということです。
もちろんFTPは非常に便利な指標ですし、FTPを高くすること自体にも大きな意味があります。
ただ、特にレースに出るのであれば、FTPという一つの数字だけで「速い・遅い」を判断するのは難しいと私は考えています。
この記事では、
- なぜFTPの高さだけでは速さを判断できないのか。
- 実際のレースでは、FTP以外にどんな能力が勝敗を左右するのか
について、自身の経験をもとに考えてみたいと思います。

自分はレースは走らないよ!という方でも、レース特有の求められる能力を知っていれば、レース観戦が一段階楽しくなること間違いありません!
ちなみに私はロードバイク歴7年、競技とトレーニングを始めて約1年7カ月です。
富士ヒルは2年連続ブロンズで、JBCFロードレースや全日本選手権、グランフォンド世界選手権などにも出場しています。
高度な競技者向けのトレーニング理論というより、競技を始めて間もない私がゼロから学んできた経験談となっています。
これからレースに挑戦したい方や、FTPという数字をどう捉えればいいのか悩んでいる方向けに参考にしていただけると嬉しいです。
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FTPをとにかく高くしたいと思っている人へ
まず最初に、FTPを上げること自体はまったく悪いことではありません。
むしろFTPは数値として成長を可視化しやすく、トレーニングのモチベーションにもつながりやすい指標です。

「今年はFTP220Wを目指す」「PWR4倍を達成する」といった目標は、とても分かりやすいですよね。
また、FTPが分かればZ2やSST、閾値走などのトレーニング強度も設定しやすくなります。
(パワーゾーン、パワートレーニングについては後日別の記事を書きたいと思います。)
自分自身の能力の変化を追うという意味でも、FTPは非常に便利です。
ただし、レースを目的にトレーニングしている場合、「FTPを上げれば、そのままレース結果も良くなる」とは限りません。
ここを同じものとして考えてしまうと、「FTPが伸びていないから、自分は速くなっていない」「FTPは高いのに、なぜレースで勝てないんだろう」と悩んでしまうことがあります。
実際には、FTP以外の能力が大きく伸びているかもしれません。
レースにおける強さには、FTPという一つの数字では表現できない要素がたくさんあるんです。
そもそもFTPとは?
FTPは「Functional Threshold Power(ファンクショナル スレッシュホウルド パワー)」の略で、ロードバイクのトレーニング強度を設定したり、自分の持久的な能力の推移を確認したりする際によく使われる指標です。
20分テストやランプテストなど、いくつかの方法を使って推定できます。
FTPテストの具体的なやり方については、別の記事で詳しくまとめています。
FTPそのものはとても有用な数値です。
ただし、FTPだけを見て二人のサイクリストを比較し、「FTPが高い方が速い」と単純に判断することはできません。

私は大きく分けて、3つの理由があると考えています。
FTPの高さ=ロードバイクの「戦闘力」ではない3つの理由
理由① FTPは測定方法・環境・機材によって変わる
まず、FTPそのものが完全に統一された条件で測られているとは限らないというのが、一つ目の理由です。

FTPの測定方法には、20分テストやランプテストなどがあります。
さらに20分テストでも、
- 室内でスマートローラーを使うのか
- 実走でパワーメーターを使うのか
- どのパワーメーターやスマートローラーを使うのか
といった違いがあります。
以前私はスマートローラーで走りながら、自転車に取り付けているパワーメーターの値を同時に観察したことがあります。
そのときは、スマートローラー側のパワーがパワーメーターよりも約10W低く表示されていました。
仮にまったく同じ脚で踏んでいたとしても、どちらの数値を使うかによってFTPの表示値は変わります。
つまり、AさんのFTP250Wと、BさんのFTP250Wが、完全に同じ条件で測られた250Wとは限らないということです。
もちろん同じ機材・同じ方法で継続的に測定するのであれば、自分自身の成長を見る指標として十分活用できます。
だからこそ私は、FTPは他人との比較よりも、まず自分自身の推移を見るために使うのがよいと考えています。
理由② 同じFTPでも、そのパワーを維持できる時間が違う
二つ目は、FTP付近のパワーを維持できる時間には個人差があることです。

これは私自身、2年連続で富士ヒルに挑戦してかなり実感しました。
私はFTP付近の出力を維持できる時間が、30〜40分程度と比較的短いタイプです。
一方で、FTP付近のパワーを60分以上維持し、富士ヒルでシルバーを獲得している人もいます。
仮に二人ともFTPも体重も同じだったとしても、
- 片方は220W付近を20〜30分しか維持できない。
- もう片方は220W付近を60分以上維持できる。
この二人が約1時間前後のヒルクライムを走れば、同じFTPでもパフォーマンスに違いが出るのは想像しやすいと思います。
つまりFTPという一点の数字だけでは、その人がどれだけ長く高いパワーを維持できるのかまでは分かりません。
ロードバイクの能力を考えるなら、FTPだけでなく、5分・20分・60分などのパワーカーブや持久力も含めて見る必要があります。
また、富士ヒルは脚を止めて休む時間がほとんどありませんので、リング獲得に必要なパワーをどれだけ長く維持できるかが重要と言えると思います。

そのため、FTPが高くても、それを長い時間維持できなければいいタイムは出せないということなんです。
理由③ レースではFTP以外の能力が勝敗を左右することがある
富士ヒル以外にも目を向けて自転車競技全般で考えてみると、FTPを一定時間維持できれば勝てるわけではありません。
- 突然アタックがくる
- コーナーを抜けた直後に強烈な加速が入る
- 登りでペースアップされる
- 一度高い強度まで上がったあと、短い時間で回復して、もう一度同じような高出力を要求される
など、レースでは一定の強度で淡々と走ることはほとんどありません。
私自身、ロードレースで特に重要だと感じているのは、まずFTPを超える強度を何度繰り返せるか、そしてその後どれだけ回復できるかという能力です。

実際のレースでは、FTPを下回る強度でローテーションをしながら巡航し、登坂やアタックでFTPを大きく超える強度でペースアップがかかることがほとんどです。
FTPが高くても、重要なアタックに一度対応できず先頭集団から千切れてしまえば、その後FTPの高さを生かす機会そのものがなくなることがあります。
さらに、ロードレースでは身体能力以外の要素も大きく関係します。
- どの選手をマークするのか
- どのアタックに反応するのか
- どこで脚を使うのか
- どこでは動かずに我慢するのか
- コースレイアウトから、どこでレースが動きそうかを予測できるか
- どうやって自分の得意な展開に持ち込むか
- どうやって自分の苦手な展開に持ち込ませないか
こうした判断も勝敗に大きく影響します。
ロードレースを走るようになって、私は当たり前だけれど重要なことに気づきました。

パワーが一番高い人が勝つのではなく、一番早くゴールラインを越えた人が勝つ。それを少しずつ時間をかけて学んでいきました。
FTPはそのために使える武器の一つですが、武器が一つ強いだけで必ず勝てるわけではありません。
ロードレースで勝敗を分けるのはどんな能力?
では、実際のロードレースではどんな能力が重要なのでしょうか。

私自身がこれまでレースを走ってきた中では、FTP以外にも大きく4つの要素があると感じています。
①FTPを超える強度への対応力と回復力
ロードレースでは、FTPを大きく超える出力を何度も要求されます。
- アタックに反応する
- 短い登りでペースアップする
- コーナー立ち上がりで加速する
- 先行する選手へブリッジする(追いつく)
こうした動きに対応できないと、FTPそのものが高くても勝負所まで残れません。
そして重要なのは、高い出力を一度出せることだけではありません。
一度大きく脚を使ったあとに回復し、もう一度高いパワーを出せることも重要です。
個人的には、ロードレースにおいてFTP以上に差が出やすい能力の一つだと感じています。
②判断力と作戦
ロードレースは、単純な体力勝負ではありません。
むしろ「どこで体力を使うか」という判断が非常に重要だと感じています。
全員のアタックに反応していたら、どれだけ脚があっても最後まで持ちません。
逆に、本当に勝負に直結する動きを見逃してしまえば、脚を温存できていてもレースが終わってしまいます。
私自身、自分の強みの一つだと思っているのが、
- 勝負に直結するアタックを見逃さないこと
- コースレイアウトからレース展開をある程度予想すること
です。
レース前にコースを見て、「ここで人数が絞られそう」「この登りの後に動きがありそう」「この区間では前にいた方がいい」と考えます。
もちろん、予想通りにレースが進むこともあれば、想定外の動きがあり、それに反応できなかった経験もあります。
同じ体力でも、どう使うかによってレース結果は変わるのだということを意識して、毎レース予測精度を高められるように力を注いでいます。
③いかに体力を温存してゴール前まで運ぶか
ロードレースを走り始めてから、私は「強い人ほどずっと強く踏んでいるわけではない」ということも学びました。
むしろ、必要のないところではできるだけ脚を使いません。
- 集団の中でドラフティングを使う
- 無意味に先頭を引き続けない
- 時にはローテーションをスキップする
- 勝負に関係のない動きには反応しない
そうやって脚を温存し、本当に必要な場所で使います。
これはFTPそのものを上げなくても改善できる部分です。
例えばFTP220Wの人が、レース中ずっと無駄に脚を使っている場合と、同じFTP220Wでも集団内で上手に温存している場合では、ゴール前に残っている体力が違います。
私は集団の中で脚を温存する走り方も、自分の武器の一つだと考えています。
④ドラフティング・コーナリングなどの技術力
フィジカルだけではなく、技術力も無視できないと感じています。
たとえばコーナリングが苦手で、毎回前の選手との距離が開いてしまえば、そのたびに余計なパワーを使って追いつく必要があります。
ダウンヒルで集団から離されてしまえば、登りで先行したとしてもその後の追いつかれてしまいます。
逆に、ドラフティングやコーナリングが上手ければ、同じ速度でも少ない体力で走れる場面が増えます。
ロードバイクでは「何W出せるか」だけでなく、そのパワーをどれだけ効率よく速さに変えられるかも重要だと感じています。
競技によって必要な「強さ」は違う
さらに難しいのが(興味深いのが)、ロードバイクでは競技によって必要な能力が大きく異なることです。
私自身の経験をもとに、ざっくり整理すると次のようになります。
| 種目 | 特に重要だと感じる能力 |
|---|---|
| クリテリウム | 絶対的なパワー、高強度の反復力、回復力、スプリント、コーナリングの技術 |
| ロードレース | FTP、高強度への対応力、回復力、戦術、体力温存、技術力 |
| ヒルクライム | PWR、FTP付近の持続力、ペーシング |
| タイムトライアル | 持続パワー、ペーシング、空力、コーナリング |
特にロードレースは、コースレイアウトによって必要な能力が大きく変わります。
- 長い登りがあるのか
- 短いアップダウンを繰り返すのか
- 平坦中心なのか
- テクニカルなコーナーが多いのか
- 一緒に走る選手の脚質は何なのか
そのコースで自分の弱点がどこになるのかを考え、必要な能力を準備してレースに臨むことが大切です。
同時に、自分の強みを最大限生かせる展開に持ち込めるかという考え方も重要だと思います。
それでもFTPが勝敗を大きく左右するレースもある
ここまで「FTPだけでは速さは決まらない」という話をしてきましたが、もちろんFTPが非常に重要な競技もあります。

代表的なのがヒルクライムです。
特に富士ヒルのような長時間のヒルクライムでは、PWRが高いことは大きな武器です。
長い登りを一定時間、高いパワーで走り続けるヒルクライムでは、FTPやPWRの影響はかなり大きくなります。
ただ、それでも私はPWRだけですべてが決まるとは考えていません。
あくまで私自身の主観ですが、富士ヒルではPWRの高さが結果を左右する要素の6割程度という感覚があります。
残りには、FTP付近のパワーをどれだけ長く維持できるかという持久力、ペーシング、高地での身体の反応などが関係していると感じています。
私自身、FTP付近を1時間未満しか維持できない一方で、同程度のFTPでも60分以上高い強度を維持してシルバーを獲得している人を見てきました。

2026年の富士ヒルで、女性で初めてゴールドを獲得した鈴なり妖怪さんは、ご自身のYouTube動画で「どれだけFTP強度を持続できる時間を伸ばせるか」に重きを置いて富士ヒル対策練習をしたと仰っていました。
「シルバーにはPWR○倍必要」という目安は参考になります。
しかし、そのPWRに到達すれば自動的にシルバーを獲れるわけではありません。
このあたりについては、別の記事で詳しく書きたいと思います。
【関連記事(現在準備中)】
富士ヒルシルバーに必要なFTPは?PWRだけでは決まらない理由
FTPの向上だけが最適解ではない
FTPという数値を目標にすることには、大きなメリットがあります。
数字なので分かりやすく、トレーニングのモチベーションにもなります。
だから、「FTP250Wを目指す!」という目標があってもいいと思います。

私自身もFTPを上げたいです(笑)。
ただ、レースに出るのであれば、FTPを上げることだけが唯一の正解ではありません。
例えば、アタックがかかるたびに千切れてしまうなら、FTPを5W上げるより、高強度の反復や回復力を改善した方がレース結果につながるかもしれません。
コーナーで毎回離されるのであれば、FTPを上げるよりコーナリングを練習した方が早く問題を解決できる可能性があります。
ゴール前にいつも脚が残らないのであれば、体力そのものではなく、集団内での位置取りや温存の仕方に改善点があるかもしれません。
富士ヒル後半で毎回大きく失速するのであれば、FTPそのものより、持久力やペーシングを見直した方がよい場合もあります。
ロードレースの打ち手は無限にあります。

そして、パワーを向上させるよりも、短い練習時間で結果に繋げられる要素も数多く存在する。それが自転車競技の面白いところだと思っています。
だから私は、「どうすればFTPを上げられるか?」だけを考えるのではなく、「自分の目標を達成するためには、何の能力を伸ばす必要があるのか?」と考えることが大切だと思っています。
FTPは他人との比較より、自分のために使う
ロードバイクでは、「FTP○W」「PWR○倍」という数字が話題になることが多くあります。
数字なので分かりやすく、どうしても他人と比較したくなる気持ちも分かります。
私自身も、以前は他の人のPWRを聞いて、「この人より低いから、自分の方が遅いだろう」と考えていました。
でも、実際にレースを走ると、その予想がそのまま結果になるわけではありませんでした。
そもそもFTPは測定方法や機材によって差があり、同じFTPでも維持できる時間は違います。
さらにレースでは、FTP以外にも多くの能力が必要です。
だから私は、FTPは他人との優劣を決める数字ではなく、自分自身の能力の変化を見るために使うのが一番実用的だと考えています。
- 昨日の自分よりFTPが5W上がった
- 同じFTPでも60分走の後半まで維持できるようになった
- 以前は対応できなかったアタックについていけるようになった
こうした変化を見ていく方が、単純に誰かのFTPと比較するよりも、自分の成長を正確に捉えられるのではないでしょうか。
まとめ
FTPは、ロードバイクのトレーニングにおいて非常に便利な指標です。
自分の能力の変化を確認したり、トレーニングゾーンを設定したり、目標を数値化したりするために活用できます。
FTPを上げることを目標にするのも、もちろん悪いことではありません。
ただし、FTPの高さ=ロードバイクにおける「戦闘力」の高さではありません。
富士ヒルチャレンジ1年目から参考にさせていただいているにんにんサイクルさんの動画でも、FTPに言及する動画があります。
測定方法や機材によって数値は変わります。
同じFTPでも、その強度を維持できる時間は違います。
そしてロードレースでは、高強度の反復、回復力、判断力、戦術、体力温存、技術力など、多くの能力が勝敗に関係します。
だから今は、「FTPを何Wまで上げるか」だけではなく、「自分の競技目標を達成するために何が必要なのか」を見るようにしています。
- 富士ヒルでシルバーを獲りたい人
- ロードレースで先頭集団に残りたい人
- クリテリウムでスプリント勝負に参加したい人
それぞれ必要な能力は違います。
FTPという便利な数字を上手に使いながら、自分の目標に必要な能力全体を見ていく。
それが、FTPという指標との一番うまい付き合い方なのではないかと思っています!
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